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2026-03-23 朝輪 Optimal stomatal models week Day1

論文情報

  • Title: A theoretical and empirical assessment of stomatal optimization modeling
  • Authors: Wang et al
  • Journal: New Phytologist
    • Year: 2020
    • Volume: 227
    • Pages: 311-325
  • DOI: https://doi.org/10.1111/nph.16572

論文メモ

Abstract

  • 最適化気孔モデルは環境変化に対する気孔の振る舞いをよく表現することができる。
  • 多くの気孔モデルは「利益(the gain function)」に炭素獲得を置いているが、「損失(the penalty function)」の設定に独自性を持つ。
  • 本研究では、10 つの最適化モデルにおける a)損失関数を 7 つの評価基準と照らし合わせたのち、b)葉のガス交換データセットと比較した。
  • 推定精度の高い最適化モデルは 7 つの評価基準によく当てはまり、モデルパラメータも少数で生理学ベースなものだった。
  • 最も優れたモデルは、ストレス誘発性の水力学的失敗に基づくペナルティ関数を持つモデルだった。

Introduction

  • 気孔の環境に対する応答メカニズムはまだ完全には解明されていないので、多くの気孔モデルは環境条件と気孔応答の経験的な関係を用いている
    • 経験モデルは未知の環境に外挿できない
  • 最適化モデルを使えば、炭素獲得と水損失との差分を最大化する、という計算ができれば(メカニスティックにモデル化することさえできれば)気孔の生理学的プロセスを詳細に知る必要がない
  • (課題)炭素獲得をモデリングすることは簡単だが、水損失を光合成と同等のスケールで定量化(モデリング)することが難しい
    • 3 つの水損失ペナルティ(どれも蒸散に伴う結果として起こる):1)土壌水分の枯渇、2)導管の空洞化(excess xylem cavitation)、3)ストレス起因の非気孔制限(NSL; nonstomatal limitation)
    • これら全てを同時にモデリングすることは困難(生理プロセスへの理解不足、計算量の増大)
    • したがって、これまではどれか 1 つを選択することが一般的であった
      • 古典的な Cowan-Farquhar は 1 に着目、多くのモデルはこれの改善版。2 や 3 に着目したモデルもある。
  • 以下の 3 つのステップで気孔最適化モデルを評価:
    1. 広く観察されている気孔反応を予測するために、ペナルティ関数が数学的に満たすべき「7 つの基本的基準」を策定
    2. 10 種類の代表的な最適化モデル(上記 1〜3 を含む)をレビューし、これら 7 つの基準と比較
    3. 複数の実測データセットに対して、各モデルの予測能力をテスト

Methods

  • 数学的に正しい挙動を示すか(C1〜3)と環境に対する生理学的な気孔の反応を表現できているか(C4〜7)の基準を策定
ID 基準の概要 数学的な定義(∂Θ/∂E) 生物学的・機能的な意義
C1 正の限界ペナルティ E_leaf > 0 のとき > 0 気孔を開くことは、植物にとって非負のコスト(不利益)を伴う必要がある
C2 非減少関数 E_leaf に対して非減少 限界利得の曲線と必ず 1 点で交差するようにし、最適解を一つに定める
C3 開始点の条件 E_leaf = 0 のとき限界利得以下 蒸散ゼロの時のコストが利益より低く、気孔が実際に開くことを保証する
C4 VPD 応答 VPD に対して非増加 空気が乾燥した際、蒸散量が飽和するか、緩やかに増加する現実的な挙動を再現する
C5 CO2 応答 C_a に対して非減少 CO2 濃度上昇に伴い、気孔を閉じて蒸散を減らす(水利用効率を高める)挙動を再現する
C6 土壌乾燥応答 土壌乾燥に対して単調増加 土壌水分が減少した際に、気孔を閉じて蒸散を抑制する基本的な反応を保証する
C7 通導機能損失応答 木部通導性の低下に対して単調増加 過去の干ばつ等で水を通す力が低下している場合、気孔を閉じてさらなるダメージを防ぐ
  • Cowen & Farquhar(1977)の基本的なモデル
    • このモデルは、植物が限られた一定量の水($E_{total}$)を、特定の時間($t_{total}$)内で最適に利用して、累積の光合成量を最大化すると仮定
    • 1/λ が定数として扱われるため、環境に対する気孔の応答(C4〜7)を表現することができない。
      • Fig.3: 炭素獲得(利益)と水損失(ペナルティ)が環境に応答することで最適な気孔開度を調整する必要がある(が、このモデルではそれが行われない=1/λ=Θ が定数だから)
  • 最適化モデルが扱うペナルティ関数には 2 種類あって、Θ(ペナルティ)を 1)水を使うことによる将来的な損失として定義していて、その瞬間の光合成速度には影響しないか(シャドウコスト)、2)水ストレスによる瞬間的な光合成の低下として定義しており、実際の光合成速度は、ストレスがない理想的な状態の光合成速度からペナルティ分を差し引いたものとして計算するもの(=NSL ベース)。

Results

  • Θ'を使って現在の光合成を直接減らすモデルよりも、Θ(シャドウコスト)としてリスクを計算するモデルの方が、実際の観測データとの一致度が高く、予測能力に優れていた
  • 7 つの基準(C1~7)に対する定性的な評価結果
    • 水供給ベースのモデル(Cowan–Farquhar, Manzoni, Lu): 数学的な解の一意性(C2–C3)を欠き、一定のコストを仮定するため、環境変化(VPD, CO2, 土壌乾燥)に対する現実的な応答(C4–C7)をほぼ再現できない
    • 水力学ベースのモデル(Wolf–Anderegg–Pacala, Sperry, Eller): 木部キャビテーションのリスクを考慮しているため、土壌乾燥(C6)や過去のダメージ(C7)への応答に優れてた
    • NSL ベースのモデル(Hölttä, Dewar): 数学的に非常に柔軟で、7 つの基準すべてを満たす
    • 新モデル: 理論的に策定された通り、7 つの基準すべてをクリア
  • 観測データとの比較
    • 水力学ベースのモデル(Wolf–Anderegg–Pacala, Sperry, Eller)が低い誤差率 MAPE
    • 全データセットを総合すると、Wolf–Anderegg–Pacala モデルが最も高い精度を示したが、このモデルはフィッティングパラメータを必要とする
    • 事前のフィッティングなしで動かせるモデルの中では、Sperry モデルと Eller モデルが最も優れていた
    • 著者の新モデルは、Sperry や Eller モデルと同等か、わずかにそれ以上の推定精度であり、フィッティングパラメータを必要としないうえに、土壌-植物の水力学的コンダクタンスの計算を必要としない点で優れている